19世紀の幕が開けようとする、1790年代後半。イギリスの都ロンドンでは天然痘の猛威を振るっていた。救済手段のない不治の病に対し、国家が取った対応は、発病の疑いのあるものを、ある半島へと押し込めるという、徹底した隔離対策だった。通称、貧民街。そびえ立つ塀と、大海へと続く断崖絶壁とに囲まれた、半島の街。 悪魔の病、天然痘は、この閉ざされた世界の中に隠されたのである。
社会全体が動かぬヒエラルキーに支配され、社会を牛耳る上層階級の人間達は、私利私欲と、自らの保身のみに心を奪われている。そんな社会風潮の中、一人の野心に充ちた学生が、名門ケンブリッジ大学の門を叩く。ヴィクター・フランケンシュタイン。
伝統に根付いた、動かぬ大学理念を前にして、行き場を失いかけていた彼の前に、一人の大学教授(生物学者)が現れる。エリック・ヴォルトマン。
前世代迄の学者達の思想に敬意を払いながら、学問に新たな地平を拓こうとする二人の科学者。彼等の類稀なる才能は共鳴し合い、天然痘ワクチン開発に向けた熱き研究が開始された!
しかし、揺るぎ無いかに見えた二人の信頼関係は、学界への学術書発表を前に、綻びを見せて行く。慈愛に充ちたヴォルトマンと、彼の歩む茨の道のりを信頼し、臆することなく辿ってゆく、その家族。一方フランケンシュタインは、その秘められた生い立ちに端を発する、歪んだ精神構造を抱えていた。やがて彼の野望は、二人を悲劇の荒波へと誘ってゆく――。
2004年初演時に、御好評をいただいた本作である。
ディレクターズ・カット版とは元来、映画作品での試みと思われるかも知れない。しかし、本作ディレクター(演出家)として、時にはストーリー展開の流麗さを求めるあまり描き切れなかった、こだわりや主張の絵(被写体)を、より色濃く織り込ませていただいた。もちろん、初演版を御覧になられてなくとも、存分に楽しんでいただけるはずである。
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