新・日本現代詩文庫81『石黒忠詩集』
石黒忠/著
そいつらは
行列を作った
言葉があったわけではない
だが 心はあったかも知れない
でなかったら
希望
(「また みみずが唄う」より)
なぜいまごろ児戯にも似たようなわたしの安保体験を思い出したかというと、この『文庫詩集』のゲラを読んで、労働現場に一貫して身を置き、そこからの反逆のルサンチマンを詩の言葉の高みへと紡ぐ、詩人としての石黒の自負と不屈の営みに、わたしは圧倒されるものを覚えたからである。そこにはあのときの挫折が(この言葉を石黒は好まないだろうが)、自覚された主体的な熱量に変容して持続されている。
(暮尾淳・解説より)
戦後六十五年が経過して、半世紀以上の時間を要しての編、詩集である。日本の社会状勢、政治状勢は、世界の流れの中にあって経済状勢もわるい。日本人の知力も若い人たちの方から劣化している。国家の行方が目的を喪失して判らない。石黒忠は、明らかに「社会派」である。批判的リアリズムが背骨となり、一本勁く筋が通っている。思想とか、哲学とか、学究的なことを追求しても、生活が困難である。さすれば、どのように、現代文学ないし現代詩の領域をすすめていけばいいのか、ためらいは充分に悟っているだろう。
(長谷川龍生・解説より)
ISBN978-4-8120-1843-9 C0192
定価1470円(5%税込)
新・日本現代詩文庫82『壺阪輝代詩集』
壺阪輝代/著
鑿の音がひびく
わたしは彫られる石だ
天の意志の鑿に彫られる石
生まれかわり 死にかわり
いくたびも心ふるわせ
笑い ののしり 憎み
それらは原石となってわたしのなかにある
(「石を彫る」より)
壺阪輝代が遺伝子のありかを探すように〈遡行〉するのは、見失ったものをさがすことであり、自分の影を求めることでもある。自分も変容するように、影も変容する。
見失ったもの、影絵のようなものをさがすといっても簡単ではない。正体不明のそれらは、自分の手をするりと抜け出し、まるで追いかけっこをしているかのようだ。不安であり、不条理を感じるが、これが生きるということなのだろう。
(井上嘉明・解説より)
壺阪輝代という詩人の魅力は、詩の根源にしっかりと足の親指をつけて詩の風土をときに鋭く、ときに淡淡とうたいきるところにその最大の魅力がある。詩語について固唾をのましてくれるのである。「ふるさとの背中」に風呂焚きをしていた母の背にむかった娘の視線は、〈さびしい島にみえて声をかけられなかった日〉〈母の背はふるさとになりはじめている〉に肉親への深い情愛を読み手に差し出してくれている。
(西岡光秋・解説より)
ISBN978-4-8120-1849-1 C0192
定価1470円(5%税込)
新・日本現代詩文庫87『黛元男詩集』 黛元男/著
運転室の
すぐ後ろの座席で
ぼくはノートに詩を書く。
時速一二〇粁で走る電車の中で
ぼくの詩は蛾のように止っているが
車体が揺れるたびにぼくの詩も揺れうごく。
(「運転室後部席にて」より)
一つは極力短歌的抒情を排して事実に拠ること。もう一つは常に人間優先の視点を持つことなどである。この人間優先の視点は、早くも処女詩集『ぼくらの地方』の序文で小野十三郎が「黛元男の詩精神は、一種のうずきに似た痛覚をもって」「公害(注 四日市公害)のさらにその背後にあるもの、眼かくしされているものを透視」しているとして着目している。この四十年も前に著者が抱いていた「痛覚」がその後の彼の詩の底流となってそれぞれの作品に結晶していったといえる。
(田畑實・解説より)
黛元男の全詩集を読みおえて思うことは、表面柔和な人柄からは想像も出来ない、男性的で硬質なモザイクの結晶である。リアリズムの追求が真実の追求と相まって詩の遊びを封じこみ、余分な無駄な言葉は見出されない。黛はまさに男そのものなのだ。酒が好きで女を抱かずにはいられない。三重詩人では珍しく原始的な酔と愛のロマンチスト詩人である。バッカス的な充満した情感がポエジーとなって発散する羨しい素質がある。
(加藤千香子・解説より)
ISBN978-4-8120-1871-2 C0192 定価1470円(5%税込)
詩集『海が消えて』
重光はるみ/著
海は本当は消えてなんかいないのです。詩人の心の中で、今でも豊かな潮騒を響かせています。ほら、詩行の奥から磯の香りのする浜風が吹いてきませんか? 家族や友達の懐かしい笑顔も見えるでしょう。そうです。重光さんの詩には、私たちが無くしてはいけない大切なものを、蘇らせる〈言葉の力〉が宿っているのです。
(一色真理)
ISBN978-4-8120-1839-2 C0092
定価2100円(5%税込)
詩集『最後のシネマ』
斎藤久夫/著
今日も無数のいのちが世界のどこかで失われようとしている。血を流す人の姿が、詩人には自らの握るペンに見える。そのインクが乾かないのに、どうして書き続けないでいられようか?声にならない無念の叫びを、沈黙の闇から引きずり出さずにいられようか?
(一色真理)
ISBN978-4-8120-1817-0 C0092
定価2100円(5%税込)
詩集『夕焼け買い』山本みち子/著
ある時 はるばる夕焼けを買いに来た女がおりまして 岬の土産物屋「ゆうひや」には まだひとつぐらいは売れ残っているはずだという駅前の干物屋の老女の話を頼りに まあ 信用できることと言えば 老女の膝で寝たふりをしていた黒猫が ちらと見開いた眼の底に見事な夕焼けを隠しておりましたので これはきっと そこから盗んできたに違いないと思ったからでございます。
「夕焼け買い」より
ISBN978-4-8120-1837-8 C0092
定価2100円(5%税込)
詩と思想新人賞叢書5『孵化せよ、光』
加藤思何理/著
第17回詩と思想新人賞 受賞詩人の新詩集
この詩が書かれた後も、世界がまだ終わらないのは不思議だ!
第17回詩と思想新人賞受賞作「少年は洪水を待ち望む」をはじめ、
ランボー、ツェラン、ネルーダ、ロルカ、ジュネらに捧げられた、
光であり、眩暈であり、種子である反時計回りの18の詩片。
ISBN978-4-8120-1813-2 C0392
定価2100円(5%税込)
詩集『が ないからだ』
石川厚志/著
面白うて、やがて哀しき……。
私は石川厚志の詩集をとても満ち足りた思いで、読み終えた。
そして、気がつくと、私は自分が「が ないからだ(体)」に
なっていることに気づいてしまった。
断言しよう。この詩集の読者である、あなた!
あなたもきっと、そうなると思う。
(一色真理)
ISBN978-4-8120-1842-2 C0092
定価2000円(5%税込)
詩集『鳥まばたけば』
北岡淳子/著
巻頭詩に、「千年前の私」が愛した男の像姿を謳う。
この詩人の詩篇のどの片隅からも、神話的な原体験の鼓動が聞こえる。
冬明けの風の日、ぷるぷる揺れるプリンを口に運ぶ老詩人の面影は眩しい。
「天使の痣」について談笑する残された時間の永遠のまばたきが眩しい。
詩人星野徹を追慕する現代女流の清冽な抒情詩篇。
(石原 武)
ISBN978-4-8120-1834-7 C0092
定価2625円(5%税込)unt