新・日本現代詩文庫108『一色真理詩集』
解説/著伊藤浩子
ここまで原初の衝動に忠実な作品もめずらしい。そういえば、原初の衝動を記憶しているものこそが芸術家だ、とどこかで読んだかもしれない。思わず目を背けてしまいそうになるがでも背けない、なぜならそこに自分自身をも見つけることができるからだ。ちなみにフロイトは、父親を亡き者にしたいという願望(原初の衝動)が無意識に棄てられることにより幼児の心は発達すると考えた。つまりこの切なる願望は消えてしまったわけではなく、心のどこかに眠っている、あまりの生々しさに普段は抑圧されているだけなのだ。詩人・一色はそれをどうしても取り出し、形あるものとして突きつけたい。自分自身にも、或いは愛する誰かのためにも。そのためには書くしかないのだ、自分の手を汚してでも。
(伊藤浩子・解説より)
ISBN978-4-8120-2050-0 C 0192
定価 本体1400円(+税)
新・日本現代詩文庫111『阿部堅磐詩集』
解説/里中智沙・中村不二夫
一見なくてもいい無駄な部分に見える。しかし、これらのことばが何とも微笑ましく楽しく、語り手の阿部の人柄までじんわり伝えてくる。それに「歩く」とは元来そういうことではないか? 車のように効率よく目的地から目的地へと回るものではない。行きつ戻りつ、立ち止まったり道草したり…「無駄」が楽しいのだ。阿部のことばは説明ではなくそれを語っている。
(里中智沙・解説より)
ISBN978-4-8120-2052-4
定価1400円(+税)
新・日本現代詩文庫110『永井ますみ詩集』
解説/有馬敲・石橋美
永井さんは関西を中心に自作詩の朗読会に積極的に参加するだけでなく、ビデオカメラを購入し、編集レクチャーを受けて、DVD撮影をするようになった。とくに病院退職後は生活語詩に関心を持ち、北海道から沖縄までの各地の朗読会現場を訪れている。その道中で、「詩朗読きゃらばん」と書かれたのぼりを持ち、その文字を絵柄にしたはんてん姿は、長めのパンタロンによく似合う。(有馬敲・解説より)
ISBN978-4-8120-2045-6
定価 (本体1400円+税)
詩集『呼坂峠の見える場所』
武田弘子/著
呼坂峠は見晴らしがいい。緑豊かなふるさとの町も、光あふれる四万十川の流れも、一望のもとに眺められる。
武田さんの詩はそこから吹き降ろす風のように真っ直ぐで爽やかだ。真実を伝える語り部としての詩人の誇りと誠実さが一字一句にみなぎっている。(一色真理)
ISBN978-4-8120-2033-3
定価 (本体2000円+税)
詩集『高田の松』
和田文雄/著
津波がみんなさらっていった
いのちてんでんこ
どれもこれも絵空事
気まま勝手なお達し
すべっても たえて
また暮らしがもどってくる
長いこと百姓やってたから
わかる
じきょうやまじ
(「自彊不息」より)
ISBN978-4-8120-2024-1 C 0092
定価 (本体2000円+税)
エリア・ポエジア叢書25『雲のはなし』
森原直子/著
セーターは動詞でできている
母は小さくなったセーターをほどき、毛糸の束を少女の腕にかけた。
すばやく巻き取られていく毛糸玉。
喜びも悲しみもほどかれ、編み直されて新しい姿に生まれ変わるのだ。
母から子へ、子から孫へ、伝えたい思いを編み込んだ24編。
ISBN978-4-8120-2004-3 C 0392
定価 (本体1800円+税)
エリア・ポエジア叢書26
『合歓の花の見える場所で』
北野明治/著
白い建物の中の暗い時間
未来はバラ色に輝き、夢はリンゴの実のように熟れていくはずだったのに……。
気づくと三十年の歳月が過ぎていた。
三日月がいつか満月になり、新しい朝が訪れたとしても、
あのとき心に受けた傷はけっして消え去ることがない。
ISBN978-4-8120-2034-0 C 0392
定価 (本体1800円+税)
新・日本現代詩文庫104『山本美代子詩集』
解説/安水稔和・伊勢田史郎
山本の散文詩は形而上詩と言えるのではないか、と思ったり、初期の作品から『夜神楽』まで通読すると、真摯に生きた賢明な一人の女性の生涯が、その繊細の精神の推移とともに惻惻と伝わってきて愛しくなってきたりする。『フーガ』だけでなく、彼女の初期の行分け詩も機智に富んでいて楽しい。“わたしの中に佇んでいる”「白い馬」を行分け詩の広大な草原にも一度放す試みも面白いのではないか、と考えたりしたことだった。
(伊勢田史郎・解説より)
ISBN978-4-8120-2031-9 C 0192
定価 (本体1400円+税)
新・日本現代詩文庫106『竹川弘太郎詩集』
解説/暮尾淳
竹川弘太郎の第二詩集『毛』の発行は、第一詩集と同じく金子光晴の「跋」をもらっていながら、光晴の死に数か月遅れた。
その「跋」で、「竹川君はふしぎな人物だ」「千言を費やすよりも、まずこのふしぎな詩をよんでみることだ」と金子は言う。この「ふしぎ」とは、反骨流亡の生涯を貫いた実存抵抗の稀代の詩人金子光晴が、『毛』を読み、詩人としての竹川弘太郎とその詩を、実感的に認めたことを意味する。「詩の美学からしても、これは、完成に近い出来栄の作品であるとおもう。この人が志向するなにものかをつかんだことは、もはや、争えない事だ」とまで金子は言っている。わたしもその側にいたうちの一人であるが、金子光晴がこれほどまでに書いた跋文を他には知らない。
遠い過去と現在、影と光、夢幻と現実、生と死などと連ねると、嘲い返されてしまうような妖しい詩の世界が、この詩集には密かに息づいている。
(暮尾淳・解説より)
ISBN978-4-8120-2030-2 C 0192
定価 (本体1400円+税)
新・日本現代詩文庫105『武西良和詩集』
解説/細見和之
本書では詩の収録が「子ども・学校」に関わるものに限定されているため、武西の膨大な作品からすると、あくまでその一部の紹介ということになる。必ずしも「子ども・学校」と関わるのではない作品も武西はたくさん書いているのだ。とりわけ、武西が二〇一〇年から故郷の和歌山県、高畑で農作業に従事しはじめたことは、今後の武西の詩にどのような展開をもたらすのか。何ごとにも手を抜くことを知らない武西だけに、私たちは大いに期待してよいはずだ。
(細見和之・解説より)
ISBN978-4-8120-2029-6 C 0192
定価 (本体1400円+税)